『木と人を繋ぎ、製材所をもっと元気に』浅見有二
このインタビューシリーズは「木」がテーマです。木が旅をする中で、様々な立場の人に出逢います。木への想いや、木と人の未来について、根掘り葉掘りお話を伺います。
(上写真 Photo by Fumihiro Kato)
今回お話を伺ったのは、埼玉県飯能市にある、西川バウム合同会社の代表、浅見有二さんです。西川バウムが運営を行うはしらベンチは、間伐材を有効活用したベンチで、飯能市を中心に多くの場所に設置されています。木の魅力を広く伝える様々な取り組みに注目が集まっています。
はしらベンチについて
西川バウムの作業場にて (Photo by Fumihiro Kato)
浅見 ここに置いてあるものは、はしらベンチの材料です。材料の木材が製材所から届いて、ここである程度簡単な加工をして出荷する形になってるんですね。
はしらベンチは購入だけでなく現在400台ほどレンタルもしています。一台につき座面に6本の木材を使っていて、半年~1年に一回木材を交換しているので、年間3000本ほどの木材がここに戻ってきて、交換作業を行なっています。
未利用な間伐材をできるだけ安く多く使ってもらいたいので、なるべく手をかけない形でベンチを作っています。さらに、レンタルで初期費用を抑えつつ、座面の木材を半年に一回更新することで、常に綺麗な状態の木材を多くの人に見てもらおうとしています。
街から帰ってきた木材(左) / その表面を削ったもの(右) (Photo by Fumihiro Kato)
浅見 今ちょうど、街から帰ってきたはしらベンチの木材の表面をスライスしてるところです。表面を少し削るだけで、とても綺麗になります。
中尾 表面が汚れたり日光で変色しても、数ミリ内側は綺麗なままなんですね。節があるのも特徴ですね。
浅見 そうなんです。切り捨て間伐とか製材所の未利用材はどうしても節が大きく、大きな節がたくさん出てるようなものは、やっぱり建築材料としては使えない。そのため山からそもそも間伐材を出してこないことになってしまう。現状では、切った間伐材は山でそのまま腐らせているところが多いです。そういうものを上手に活かそうとしています。
中尾 節があってもベンチとしては全く問題なさそうですね。街から戻ってきたはしらベンチの木材は、表面を削ると少し小さくなるようですが、これは再びベンチとして使われるんですか?
浅見 ベンチとして再利用するものもあるし、状態が悪いものは短く切って古材のウッドデッキにしています。そしてそれをさらに庭に敷くウッドブロック、積み木などにしたり、最後はウッドチップなどにもしています。
中尾 元々は捨てられてしまうような間伐材を使って、さらに二次利用、三次利用していき、余すことなく木を使い切っているんですね。
間伐材の二次利用品「おくだけデッキ」
はしらベンチの端材を使ったプロダクトたち (Photo by Fumihiro Kato)
浅見 はしらベンチっていうのは、きちっとした完成品があるわけではなく、角材のサイズがバラバラだったり、節があったり、ちょっと曲がったりしていても、ベンチとして耐えられるぐらいのざっくりした作りにしています。なので、木材の表面を削って多少小さくなっても問題ありません。組み立てが簡単なので、交換は1人でも可能です。
出典:西川バウムHP
中尾 脚部に木材を載せて、手すりを被せるだけになっていますね。製造、更新の手間を少なくするために、部材の組み合わせ方が簡略化されているんですね。
浅見 はい。そして、座面は3本の木材で事足りるんですが、あえてそれを二段にして、計6本の木材を使っているんです。別に3本だけでも、十分厚みがあるからベンチとしては問題ないんですが、間伐材利用を考えると、なるべく本数を多く使った方がいいと思って。そうすると、下の段は割れがひどかったり、節が大きくてささくれがあったりするような木材でも使えるんです。
中尾 なるべく多くの間伐材を街にストックすることができますね。
浅見 はい。そしてベンチの重量が増すことで安定感が増します。
この事業の目的としては、間伐材利用はもちろん、木の魅力の発信も重要だと思っています。はしらベンチは設置後半年間ぐらいは綺麗なので、木のいいところを人がいなくても発信してくれます。製材したばかりなので、半年間は木の香りがあります。部材を更新しなければ、いつかは汚れたり割れたりして座りたくないベンチになってしまうので、常に木の魅力を発信するために、レンタル品は部材を交換しているんです。今は、1人の専属の作業員さんが、多い時には1日10台ぐらい交換作業を行なっています。木材を交換してると、近所の方が見守ってくれていることがあるんです。「また綺麗になるんだね」と言って喜んでくれるんです。そういう声は私たちにとって励みになりますね。
中尾 生きた素材を使って大切に維持管理されているから、街の人も愛着を持って使ってくれるんですね。
浅見 はい。一つ設置するだけで多くの人に木の良さを知ってもらえるという点では、住宅よりも、木の良さを波及する効果が高いと感じています。住宅は、たくさんの木と費用を使って建てたとしても、そこに住んで木の良さを知ってもらう人って、住人に限られてしまうじゃないですか。それよりも、街なかで多くの人に木の良さを知ってもらって、本物って気持ちがいいとか、思ってるほど値段が高くないとか、扱いやすいんだみたいなことを知ってくれて、ちょっと面白そうだから使ってみたいなという人が増えない限りは、木の需要に繋がってこないんじゃないかなっていうのを、強く感じています。
中尾 街では、本物の木の良さを知れる場所って本当に少ないですよね。木目を印刷したシートや木に似せた樹脂板が公共施設に使われていたりしますが、それを見て、木の魅力を感じることはなかなか難しいです。
浅見 本当に木を使っているものでも、ほとんどはオイルやウレタンで塗装して、きちんとした製品になっているから、香りや肌触りなど、ダイレクトに木の良さを感じることって、できなくなっちゃってるんですよ。無塗装であっても、木の製品を作るって言ったら、収縮を抑えるためにまず乾燥させなきゃいけなくて、乾燥させたら木のオイル分も抜けちゃうから、香りも薄くなってしまうんですよね。
中尾 はしらベンチは、地域の木材で、無垢材で、しかも新鮮な木材を使うことで木の本来の魅力を多くの人に伝えているんですね。
西川バウムができるまで
西川バウム事務所内。様々な木の製品が並ぶ。 (Photo by Fumihiro Kato)
中尾 浅見さんはどのような経緯で西川材に関わることになったんですか?
浅見 私は元々飯能に生まれて育って、ずっと木材の関係で仕事をしてましたので、そういう意味ではずっと西川材と関わってきましたね。製材所をやっている親の元で育ち、大学を出た後は、親の製材所に入りました。そこで製材の仕事を十数年続けていましたが、小さい製材所でしたから、40才ぐらいのときに製材所を閉じることになりました。
その後、飯能市の協同組合である木材加工工場「フォレスト西川」ができて、そこで働くようになったんですね。フォレスト西川が始まって2年目ぐらいのことでした。そこで仕事をしてる時に、構造材以外の部分を活かした木の製品開発を任されて、西川材利用開発研究会というグループができました。それで、西川材で家具や建具を作ってみたりして、20年ほど勤務していました。仕事を続けるうちに、木材や山の現状について気になることが増えてきて、もうちょっと思い切ったことがやりたいっていうのもあり、独立を考えはじめました。ちょうど、地元の仲間たちと、山の木をもっと活かしたいみたいな話で盛り上がりました。それで、ちょうど60才を機に会社を辞めて、独立したっていう感じです。
中尾 60才から起業されたのですね…!
浅見 そうです。あまり考えもせずに始めちゃいましたけど、でも、もうそのタイミングじゃないと、できないことだったんです。その時から始めた私たちの活動は、今年で7年目になります。
西川バウムの活動について
中尾 家業であった製材所、フォレスト西川でのご活動が今の西川バウムの取り組みにつながっているんですね。西川バウム様の現在のご活動について、詳しく教えていただけますでしょうか。
浅見 独立して、何がやりたいかを考えた時に、やっぱり山の木がちゃんと生かされて、木の良さを知ってもらって、みんなに喜んで使ってもらえるってことが、製材所のためにもなるし、山主さんのためにもなるのかなと思いました。
しかし当時の現状は、山で育てている木のほとんどは、大壁工法(柱や針などの構造材を壁で覆い隠す作り方)の構造材として出荷されていました。山の職人たちは、質がいい木にするために先祖代々仕事をしてきたのに、どうせ壁で隠れてしまうとなると、木の質が関係なくなってしまいます。そう考えると、家を建てる時に、その木を使ったから喜んでもらえたということが無くなっちゃっていて、そこが1番の問題なんです。
それで、みんなもう今の代で製材所をやめちゃうとか、山を手放してしまう状況になっています。でも本当は、木って、生活の中で目に見える形でちゃんと使ってもらえると、みんなが喜んでくれる素材だと思うんですよね。木の匂いが嫌だと言う人はいないじゃないですか。だから、木の良さを皆さんに知ってもらって、喜んでもらいたいなっていうのがあって。
そのためには、製品所にある木材や、山で切り捨てられている間伐材を、今の生活の中でどう使ってもらえるかを考えて、製材所に提案していく仕事をしていくことが重要だと考えました。そして今度は、皆さんに喜んでもらえるっていうことを製材所の職人にも知ってもらえれば、製材所の職人は、それならちょっと頑張ってみようかなって思ってもらえます。
だから、山と街のちょうど中間に立ったところで、需要と供給をうまくつなぐことをどうしたらいいか考えながら独立したわけです。その中で、あれこれやっていく中で、通りにベンチを作ってみようと思いついたのは、製材所の前を通ってる人の足を止めたいと考えたからです。最初は製材所の材料を加工してベンチを作ったらいいかなと思ったんですけど、せっかく角材がいっぱい置いてあるから、あれを横に並べてベンチっぽくして座ってもらえば、手間がかからないと思いつきました。そのベンチがだんだん大きくなって、3mほどの柱材が6本も載るようなベンチをつくり、「はしらベンチ」と名付けました。はじめは木造住宅用の3mの柱材を使っていたのですが、途中から間伐材の利活用のためにだんだんとサイズが小さくなり、今の1.9mサイズ(はしらべんちmini)がメイン商品になりました。柱材を使うことは少なくなりましたが、わかりやすいので、はしらベンチという名前のままにしています。
今、台数でいくと500台ぐらいなんですね。最初はそんなに台数が増えると思っていませんでした。木の話をするきっかけになればいいというのが始まりでしたからね。台数が増えるきっかけになったのは、飯能市役所が西川材の普及のために、はしらベンチを使い始めたからです。それが最初の起爆剤になった感じなんですね。それから、1番大きいのは、SDGsの取り組みがここ数年で特に盛り上がってきたことです。大企業では、SDGsの取り組みの担当部署のようなものがあり、その担当者からの問い合わせが増えていますね。
東飯能駅に並ぶはしらベンチ
未来に向けて
中尾 現在は、はしらベンチを主軸に西川材の普及や製材所のサポートを行っておられるのですね。今後の西川バウム様の取り組みについては、どのように考えられていますか?
浅見 はい。先ほどの話の続きになりますが、はしらベンチが200台、300台ってなってきた時に、SDGs関連の問い合わせが増えてきまして、去年あたりにかなり多くの相談がきました。「はしらベンチの取り組みが面白いから、その枠組みを参考にして、自分たちも木を使った事業を行いたいので、そのコーディネートをお願いしたい」というようなご依頼が多いです。そのような場合、木材をどうやって使い捨てしないか、ということが重要で、はしらベンチのように、木材の2次利用、3次利用をしていく方法を考える必要があります。
はしらベンチは、山の問題の状況を大きく変えることはまだできていませんが、システムが単純なので、そのわかりやすさによって、はしらベンチそのものや、はしらベンチのような仕組みが広がっている感じがします。だから今後は、はしらベンチをきっかけにした、その先の未来を、皆さんと考えていきたい、取り組んでいきたいと考えてますよ。そして、製材所をもっと元気にしていきたい、という想いは変わらずにあります。
また、木を使った製品を開発したいという相談も多いので、そのような方に最適なメーカーを紹介することもやっています。例えば、特殊な家具を作るなら、それが得意な工房に繋いだり、幼稚園、保育所みたいな、棚をたくさん作りたい時には、量産が得意な工場に頼みます。あとは、福祉施設にお願いしたりすることもあります。そのようなコーディネートは、フォレスト西川にいるときから行っていて、様々なつながりがあるので、今度は、木の製品の需要があれば、それを作れるメーカーさんにうまく繋いであげて、木の製品が、もっともっと流通が良くなるようにしていきたいと考えています。
中尾 資源循環の広い視点から、企業や個人と様々なメーカーを繋ぎ、木の旅をコーディネートする役割を担われているんですね。
浅見 はい。相談に来ていただいた方には、こちらを差し上げるようにしています。これは、「こころの洗たく石けん」っていう名前です。
手前にあるのが「こころの洗たく石けん」
中尾 製材したてのヒノキの、とても強い香りが残っていますね。
浅見 これをまずきっかけにしようっていうことで、人に会うときにはいつも差し上げるようにしています。結局、これが1番効果があると感じています。それから、木に触れて喜んでもらうことで、私たちのモチベーションもすごい上げてるんですよ。
中尾 そうなんですね! 先日いただいた、不揃いのつみき「カクカクつみき」は、娘の愛用品になっていますよ。
「カクカクつみき」
浅見 ありがとうございます。その積木は、はしらベンチだけに限らず、いろんな製品を作る時に出てくる端材を使ってます。無駄なくっていう趣旨が重要だから、今ある材料を組み合わせて積み木っぽくしてます。木を削る作業は福祉作業所にお願いしています。
そのような、木の良さに気づく小さなきっかけを色々積み重ねていって、それで木に興味を持ってくれてる下地がじわじわ広がっていくことが大事だと考えています。その下地さえできてれば、家を作る時にも、モチベーションが違ってきますし、製材所を、そして山を元気にしていくことにつながっていくと思います。
中尾 本日は貴重なお話を、どうもありがとうございました。
ご精読いただきありがとうございました。
はしらベンチの端材で作った不揃いの積み木「カクカクつみき」は、西川バウム様の本社のほか、以下からもご購入いただけます。
また、西川バウム様へのご相談やご訪問の連絡などはホームページに記載の連絡欄からご連絡ください。
取材: 中尾直暉・中尾穂風
協力: 西川バウム合同会社
日付: 2025/02/10
場所: 埼玉県飯能市 西川バウム合同会社本社
編集: 中尾直暉
撮影: Fumihiro Kato